大阪地方裁判所 昭和23年(ヨ)1005号 決定 1948年12月14日
申請人
三宅雪雄
外五名
被申請人
木南車輌製造株式会社
当裁判所は当事者審訊の上申請人等に保証金五百円を立てさせた上左の通り決定する。
主文
被申請人は、申請人等の被申請人従業員として就業することならびに申請人が木南車輌従業員組合の組合員として組合のための行為をすることを妨害してはならない。
被申請人は、申請人等に対し、昭和二十三年十月十五日以降別表記載の賃金よりそれぞれ所得税法に定められた税額を控除した金員毎月二十七日仮に支払わなければならない。
理由
申請代理人は主文同旨の決定を求め、その理由として、申請人等はいずれも被申請人会社の従業員であり、別表記載の賃金を給与せられていたものであるところ、被申請人会社従業員は木南車輌従業員組合と称する労働組合を組織しているが、申請人等の属する戎島工場の組合員は、昭和二十三年九月二十四日と同年十月四日の二回にわたり職場大会で当時の組合長重久正不信任の決議をしたが、十月六日の三宝工場の職場大会では、これに反して右組合長信任の決議をし、同日開かれた戎島、三宝、姫島の代議員会において不信任案は否決せられたので、戎島工場選出の代議員はその責を負うて一同辞任したので、十月七日代議員を新たに選挙したが、戎島工場選出の執行委員も亦辞任の意思を表示したため翌八日午後各仕事場別に夫々無記名投票により執行委員の選挙を行つた。右選挙は各組合員がその職場において投票用紙に記入投票し、これを各職場選出の代議員があつめて作業終了後開票したもので、作業時間中選挙に要した時間は五分乃至十分にすぎなかつた。ところが同月十四日被申請人は突如申請人等に対し、職場離脱を理由として解雇の通知をしてきた。しかしながら被申請人会社の労働協約によれば、会社が組合員を解雇せんとする場合は予め組合の同意を要することになつており、又就業規則によれば従業員の懲戒は、組合との協議の下に行うことになつておるにもかかわらず、被申請人はこれらの手続をとることなく申請人等を解雇したのであるから、右解雇は労働協約、就業規則に違反するばかりでなく、申請人等が組合のためになした行為を理由として同人等を解雇することは労働組合法第十一条に違反し、無効である。それで申請人等は被申請人を被告として解雇無効確認の訴を提起する準備中であるが、申請人等は解雇の通知を受けて以来、物価騰貴と転職困難の現在餓死に瀕している。又申請人等の組合は目下被申請人に対して越年資金等の要求を提出しているが、前記のような組合内部の情勢からいつて組合役員たる申請人等の解雇は組合にとつて大打撃であり、延いて申請人等の蒙る損害も亦甚だしいといわねばならぬ。それで申請人等の直面する右のような窮迫を避けるため前記本案判決の確定する迄、仮に申請人等が被申請人の従業員たる地位を定め、申請人等が従業員として就業し且つ組合員として組合のための行為をすることについて被申請人の妨害を禁止し、賃金の支払を命ずる仮処分を求めるため本申請に及んだ、と述べ疎明方法として甲第一乃至第十一号証を提出した。被申請代理人は、申請人の申請を却下する、との決定を求め、答弁として、申請人主張の事実中、申請人等が被申請人会社の従業員として別表記載の賃金を給与せられていたこと、申請人主張のような労働組合が存在し申請人等はその組合員なること前組合長重久正に対する戎島工場職場大会における不信任決議ならびに代議員会における同不信任案の否決せられたこと、これがため戎島工場出身の代議員が辞任しその補充選挙の行われたこと申請人主張の日時戎島工場において執行委員の選挙が行われたこと、被申請人が申請人等を解雇したことは認めるが、右選挙は正当な組合運動ではない、すなわち申請人等は執行委員が辞任していないにもかかわらず、組合執行部が辞任したから執行委員の選挙を行わねばならぬとの虚偽の宣伝を行い、作業中一般従業員に投票の説得に廻つて投票せしめたもので、被申請人は、申請人等が詐術を用いて職場秩序を破壊し、且職場を放棄した行為は就業規則第三十一条第九号によつて組合との協議を経て懲戒解雇処分に附すべき事由に該当するところ、組合の希望を容れて労働基準法第二十条による即時解雇処分をとつたものであり、就業規則に定められた組合との協議を経ているし、又前記選挙は労働組合の正当な行為といゝ得ないから、申請人等に対する解雇は労働組合法第十一条にも違反しない。仮に申請人等に対する解雇が無効であるとしても、使用者は労働者が提供した労働力を受領する権利はあるが受領の義務はないから、受領を拒絶しても、受領遅滞として賃金支払の義務を負担するにとどまる。従つて労働者に就労の請求権はない。仮に使用者に労務の受領義務があるとしても仮処分としては、申請人等に賃金を支払えば足り申請人等を職場に就業せしめることまでを認める必要は存在しない。と述べ、疎明方法として乙第一乃至第七号証を提出した。
申請人主張の事実中、申請人等が被申請人会社の従業員として別表記載の賃金を給与せられていたこと、申請人主張のような労働組合が存在し、申請人等はその組合員なること、前組合長重久正に対する戎島工場職場大会における不信任決議のあつたことならびに代議員会における同不信任案の否決せられたこと、これがため戎島工場出身の代議員が辞任し、その補充選挙の行われたこと申請人主張の日時戎島工場において執行委員の選挙が行われたこと、被申請人が申請人等を解雇したこと、については当事者間に争のないところである。
申請人等は右解雇は、被申請人会社の就業規則と労働協約ならびに労働組合法第十一条に違反し無効であると主張し、被申請人は之を否認し、被申請人は本件解雇に付て組合との協議を経ているから就業規則と労働協約に違反せず、而も申請人等のなした十月八日の執行委員の選挙は組合の為の正当な行為といい得ないから、申請人等を解雇することは労働組合法第十一条に違反しないと抗争するので、この点に付て考へてみるのに、疏甲第八号証と被審人野々脇澄、馬場猶吉の各供述とを綜合すると、申請人等の属する戎島工場の組合員の間においては、当時の組合長重久正に独断専行の行為が多かつた為、同組合長に対する不満と排激の声が次第に高まり、遂に九月二十四日と十月四日の職場大会に於て二回に亘り同組合長不信任の決議をなし、同工場選出の代議員は十月六日被申請人会社三宝工場に於て開かれた三宝、戎島、姫島各工場の代議員会に於て執行部(組合長、副組合長、執行委員)不信任案を提案した処、重久の属する三宝工場選出の全代議員がこの案に反対した為、不信任案は否決せられたばかりでなく、戎島工場選出の代議員に於ても不信任案反対の投票をしたものがあつたので、戎島工場選出の他の代議員等は組合員に対する責任を感じ、職場大会に代議員会の模様を報告すると共に、辞意を表明したので、同工場に於ては十月七日代議員の改選を行つたのであるが、同工場選出の執行委員も亦前記職場大会に於て辞意を表明したので、新たに就任した代議員等は一応慰留に務めたけれどもその辞意を翻すことができなかつた為已むなく翌八日之が改選を行う事となつたが、組合員が組合行事の時間に充てる事を常としていた正午から五十分の休憩時間は昼食と選挙の打合せの為過ぎてしまつたので、午後の作業が始まると同時に各仕事場別に各組合員がその職場に於て投票用紙に記入投票し、之を各職場選出代議員が集めて作業後開票したもので、選挙は戎島工場の組合員一同の参加によつて平穏に行われ、作業時間中之に要した時間は五分乃至十分にすぎなかつたことを認める事ができるのであり、この事実に基いて判断すると執行委員の辞任が適法に行われたか否か、又選挙が有効になされたか否かの点はしばらくおき、組合員としては之が補充の選出をなさねばならないと考えるのは自然であり、当時の組合内部の情勢からいつても至急之を施行しようとするに至つたのは已むを得ざる勢であつたといわねばならず特に詐術とか撹乱とかを以て目すべきではないといわねばならぬのみならず、そもそも組合内部の前記のような党派争は組合外たる被申請人の干与すべき事ではなく、その選挙運動の当否や選挙の適否に付て異議を主張する利益を有しない。ただそれが作業時間中職場を離脱したという点において、会社の経営を阻害したといいうるのであるが、前記のように選挙のために作業時間を割いて用いたのは、僅かに五分乃至十分の短時間であり、そのように短時間の職場離脱が就業規則(疏甲第三号証)第三十一条第九号に規定する懲戒解雇の原因に該当する程重大な事由であるとは同条第一乃至第八号に掲げられた懲戒解雇事由や第三十条に掲げられた譴責又は減俸に処すべき事由と比較して、認めることが困難であるから、右のような理由をもつてしては、たとえ組合の同意を得ても懲戒解雇処分をすることはできないものといわねばならぬ。さすれば申請人等に対する解雇は同規則第二十六条第四号に依る外ないのであるが、被申請人とその従業員組合との間に締結せられている労働協約(疏甲第二号証)第六条には「会社は組合員を解雇せんとする場合は予め組合の同意を得るものとす、但し従業員服務規定に定める事由による解雇はこの限りでない」と規定し、右従業員服務規定に該当する就業規則第二十六条第六号に依ると、前記同条第四号の解雇は「労働組合との協議を得て之を行う」べき旨を規定する。この労働協約の規定と就業規則の規定との関係は甚だ明確を欠き、殊に就業規則にいわゆる「協議を得」とは如何なることを意味するか頗る曖昧な用語であるがそれは一方において、就業規則で定めた「協議」の要件が労働協約で定めた「同意」を要件とする原則に対する特別乃至例外であることを考えると、組合の同意迄を要するものとは考えられないと同時に、他方において、被申請人、会社の経営協議会規定(疏甲第十一号証)第二条の規定の存することから見ても、単なる一片の通告をもつては足らず、少くとも組合の意見を徴し、互に相手方と見解を披瀝し合つた上両者の意見が合致しないときには経営協議会の協議に付さなければならないものと考える。疏乙第三乃至第五号証に依ると、被申請人は十月十一日組合に対し申請人等外三名の職場離脱の件について組合側の調査を求め、同人等に対する処分について回答を促し、同月十三日組合から被申請人に対し、調査の結果職場離脱の事実を確認する旨ならびに処分については寛大な処置を懇請する旨の回答があり、翌十四日被申請人から組合に対し懲戒解雇にすべきところ、会社都合による解職をなす旨通告したことを認めることができる。然しながら申請人等の行動が本来懲戒解雇処分に附すべき事由に該当しないこと前認定の如くであるから被申請人が会社の都合による解職という処置をとつたことは客観的には組合の意思を酌んだ結果といえないばかりでなく、解雇というような労働契約関係の消滅を来す労働者の一身上に最も重大な影響を与える事柄について、右のような手続のみをもつて組合との協議を得たとはいい難い。
従つて本件解雇の意思表示は就業規則延いて労働協約に違反するものといわなければならぬ。
更に労働組合法第十一条には、使用者は労働者が労働組合の正当な行為をしたことを理由として、解雇その他労働者に不利益な取扱をしてはならないと規定する。さらに認定したように、申請人等のなした十月八日の執行委員の選挙が、組合員としてその必要に迫られた已むを得ない勢であつたとすれば、その選挙が有効であるか否かの法的評価は別問題として、申請人等の行為を組合の正当な行為の埒外にあるものということはできない。
尤も、右選挙のために作業時間をもつて之に充て、その間作業を休止した点は違法であるといわなければならないが、前記のような極めて短時間の職場離脱を理由として、申請人等の選挙行為を全体として違法であると考えるのは行きすぎである。勿論たとえ極く短時間の職場離脱と雖も、それが屡々繰り返えされたり、或はその離脱によつて甚大な経営能率の低下と経営秩序の破壊とを招来するものであるときは、その行為全体が違法性を帯び、解雇の理由となりうるけれども、そのような特殊の事情の存在することについては被申請人の疏明しないところであるから、申請人等が前記選挙に際してとつた行動に僅少の瑕疵の存在することを理由として、最大の不利益をもつてこれに酬いることは違法といわねばならない。
以上のように被申請人の申請人等に対する解雇の意思表示は労働協約、就業規則に違反すると共に労働組合法第十一条に違反し、無効といわなければならない。
そして申請人等が職員又は工員として勤務していた被申請人会社における職を突如として失つて以来、他に就職先を見付けることは容易でなく、且つ物価騰貴の現下の世相において申請人等ならびにその扶養家族が生活の甚だしい困難に直面していることは被審人野々脇澄の供述を俟つまでもなくこれを認めるに難くないさすれば申請人等のこの急迫する窮乏の状態を避けるために、申請人等から被申請人に対する解雇無効確認の本案訴訟の確定判決のある迄の間、仮の地位を定める仮処分として申請人等が被申請人の従業員である地位を仮に定める必要があるものといわねばならぬ。
それで当裁判所は申請人等に対してその被申請人会社における従業員たる地位を仮に定めることを前提として申請人等と被申請人とは右の地位にもとずき、具体的に如何なる権利義務を有するかの点であるが、申請人等が賃金支払の請求権を有することは当然のことであるが、就労請求権については、被申請人は、仮に申請人等に従業員たる地位を認めても被申請人はその労務の提供を受領する義務あるものではないと争うので、この点について考えてみるのに、仮処分において労働者の就労請求権を認めるためにはその前提として雇傭主は、労働者の労務の提供ある場合これを受領する義務あるものと考える立場をとらねばならぬのであるがこの問題を解決するためには、先ず一般に債権者は履行の受領義務を負うか否かの問題を解決せねばならない。ところで債権関係が債権者債務者相互の信頼関係を基礎とし、債務の履行は、両者の一致協力によつてはじめて円満完全に成就せられることのできるものであることを考えるとき、債務者が適法に履行の提供をした場合、これを受領することは単に債権者の権利であるばかりでなく、義務であると考えることによつてはじめて妥当な解決を見ることができる。すなわち、債務者が適法な履行の提供をしたにも拘らず、債権者が正当な理由なくしてその受領を拒んだ場合には単に被申請人のいわゆる権利不行使としての債権者遅滞の効果によつて、債務者の側において債務不履行から生ずる一切の不利益の免脱、供託による債務の消滅、約定利息の発生停止、注意義務の軽減、増加費用の請求権発生等の効果を生ずるに止まるものでなく、受領拒絶自体一の債務不履行として、債務者の履行遅滞と同様の効果、詳しくいえば、債務者は受領遅滞を理由として損害賠償を請求し或は受領を催告して契約を解除しうるに至るという効果を発生せしめるものである。このことは一見債権者に過大の負担を帰せしめるように見えるかも知れないけれども決してそうではない債権者に受領義務があるということは、かの国民の公法上の権利が同時に義務であるというが如きとは同一ではなく、債権者に端的に権利の行使を義務付けるものではない。債権者が履行の請求権を抛棄しようと思へば、任意に債務の免除をすることによつて債権の消滅をはかればよいのであつて、債権の存続を維持しながら、しかも債務者が適法に履行の提供をした場合に恣意にその受領を拒絶するにおいては、債権者は債務不履行と同一の責任を負わなければならないというのである。そして債務者の受領遅滞が債務不履行となるのは、かの権利不行使としての債権者遅滞が債務の故意過失を問わないのと異り、債権者にその受領遅滞について故意過失あることを要件とするばかりでなく、その受領せざることについて正当の理由のある場合にはこの効果を生じないものと解すべきである。このように一方において債権者遅滞の要件を重くするとともに、他方その効果としての責任を大ならしめることが債権者債務者間の衝平の点からいつて最も妥当な解釈であると信ずる。
さて、債権者の受領義務を右のように解するときは、雇傭主が労働者の労務の提供を受領する義務を有するか否かについて、労働関係法規に特別の規定があるが、或は労働契約関係の特殊な性格が債権法の右の原則を変更しない限りは、労務の受領は権利であるのみでなく、義務であると考えなければならないのであるが、労働関係法規にそのような特別の規定がないばかりでなく、労働契約関係のように特定人間の人格の継続的な関係として、売買其の他の非継続的契約に比して一層債権者債務者間の信頼を必要とする契約関係において、前記のような債権法の原則を強めこそすれ、弱める事情は毫も存しないのである。さすれば雇傭主は、解雇によつて労働契約関係を消滅せしめるとか、争議手段として作業所閉鎖を宣言するとか等の場合は格別、労働契約関係が正当な状態においてある限り、労働者が適法に労務の提供したとき、これを受領する権利のみでなく、受領する義務あるものであり、正当な理由なくして恣意に受領を拒絶し、反対給付である賃金支払をなすことによつて責を免れるものではないといわねばならぬ。勿論雇傭主は債務の免除をすることによつて労働者の労務提供の義務を消滅させることもできるし、又工場閉鎖を行うに至らなくとも、一部の職場の運転が経営困難の原因となつていて、その職場の運転を休止しなければ、経営の維持が困難となるような事情の下においてはその職場の労働者のみの労務の受領を拒絶するについて雇傭主の責任を阻却する事由があるといえよう。ところが本件の場合には、凡て右のような特別の事情が認められない以上、被申請人は申請人等の提供せんとする労務を受領する義務あるものという外ない。
次に被申請人は、仮に被申請人に労務受領の義務があるとしても、仮処分においては申請人等は賃金の支払を得れば足り、就労を求める必要がない、と争うのであるが、労働契約関係が前認定のような性質を有するものである以上申請人等が働くことによつてその報酬としての賃金支払を求めているのに、賃金のみを与えて申請人等の扶牛徒食を強いなければならない何等の理由もない。誠実に労働したいと申出る者は就労請求の仮処分を求める必要を有するものといわねばならぬ。被申請人の抗弁は採用できない。
以上の理由によつて主文の通り決定する。
なお被申請人に対し、申請人等が組合のための行為をすることを妨害してはならない旨を命じたのは、使用者は労働者の組合運動を認容する義務があり、組合運動に対する事実的妨害行為は勿論、組合運動をしたことを理由に解雇その他不利益な取扱をしてはならない旨を命じたのであつて、ここに保護せられるのは、あくまで適法正当な組合運動であること当然であつて職場大会にせよ、選挙にせよ、その他一切の行為にせよ、就業規則に定められた服務規律に従い、就業の義務の完全な履行に背反しないことを前提とするものであるから、前段に認定したような、作業時間中職場を離脱して組合運動をすることを許容する趣旨でないことはいうまでもなく、短時間の職場離脱も、これを再三繰り返すことによつて、就業規則第三十一条第九号の懲戒解雇事由に該当するに至る場合あることに申請人等は注意すべきである。右特に附言する。
(別紙) 申請人等の賃金表(昭和二十三年九月分)
<省略>
申請
大阪地方昭和二三年(ヨ)第一〇〇五号仮処分事件(昭和二三、一二、六申請)
一、当事者
申請人 三宅雪雄 外五名
被申請人 木南車輌製造株式会社
二、申請の趣旨
(一)、被申請人が昭和二十三年十月十四日に申請人等になした解雇はその効力を停止する。
被申請人は申請人等が被申請人の従業員として出勤することを妨害してはならぬ。
被申請人は申請人等が木南車輌従業員組合の組合員として行動することを妨害してはならぬ。
被申請人は各申請人に対し昭和二十三年十月十五日より十一月十四日に至る別紙表示の賃金を夫々仮りに支払へ。
との御裁判を求める。
三、申請の理由
(一)、申請人等は何れも被申請人会社の従業員であり各申請人の職場に於ける地位及給与は別紙表示の通りである。
(二)、申請人等従業員は木南車輌従業員組合と称する労働組合を組織しているが(被申請人は戎島、三宝、姫島の三工場を経営しており組合はこの三工場の従業員を以て組織されている)申請人等の戎島工島の組合員は昭和二十三年九月二十四日同十月四日の二回に亙り当時の組合長重久正不信任の決議を職場大会で行つたが同月六日三宝工場の職場大会ではこれに反し信任の決議をしたので戎島工場選出の執行委員及代議員は其責を負うて一同辞任することになり十月七日代議員を新たに選挙し翌八日午後各仕事場別に夫々執行委員の選挙(無記名投票による)を行つた。
然るところ同月十四日被申請人は突如申請人等に解雇の通告をして来た、これは十月八日の執行委員選挙について被申請人の承諾を得ず就業時間中作業から離れたと云ふにある(選挙は仕事場別に行つたのでこれに要した時間は二十分前後と思ふ)。
尚申請人等は何れもこの選挙によつて新たに選任された役員の一部である(詳細は別紙第二表)。
(三)、当事者間に結ばれている労働協約第六条によれば会社が組合員を解雇せんとする場合は予め組合の同意を得ることになつており就業規則第二十六条に解職の場合同第三十一条に懲戒解雇の場合が規定されており尚その手続方法も定められている。
これらの規定によれば右解雇が労働協約就業規則に違反し無効であることは明かである(尚就業規則第二十一条参照)
(四)、よつて申請人等は大阪地方労働委員会に不当解雇取消の提訴をし地労委は十一月二十二日右解雇を取消すべき旨の斡旋勧告を決定したが被申請人は之に応じないので更に労働組合法第十一条違反として提訴中である。
尚申請人等に対する解雇は無効であるから昭和二十三年十月十五日以降の賃金は当然支払はるべきであり其の一ケ月の給与は既述の如くであるが被申請人はこれを拒否している。
被申請人会社では給与は毎月二十日締切廿七日払であり茲では取敢へず十月十五日以降十一月十四日まで一ケ月分を請求する。
(五)、申請人等は本日御庁に解雇無効確認の訴を提起し且つ目下賃料請求の訴を出すべく準備中であるが、被申請人は十月十四日解雇通告後申請人等が工場に赴くことを拒否し地労委の裁定にも拘らず尚拒否するばかりでなく賃金の支払をもなさない。
本案判決が確定することを俟つのは労働力を売る以外に生活の資をもたない労働者である申請人等にとつては餓死を意味し勝訴の判決も実益のないこととなる。
特にインフレと首切りの時代である現在では他に転職も容易でなく又食えない現状である。特に年末がせまつていることは申請人等一家にとつて重大な脅威である。
尚申請人等の組合は越年資金等の要求を闘つているが、組合の役員である申請人等の解雇は被申請人の労働組合への弾圧の現れであり、この点からも申請人等が従業員である地位を確保する緊要性がある。
以上の理由により申請の趣旨記載の仮処分命令を求める次第である。
(疎明省略)
大阪地方裁判所 御中
(別紙省略)